GIMA MISAKI 's Work
Can We Save Him?
護り神 Mamorigami
LOVE AMULETTE
Exposition ~ GIMA MISAKI 岬 次馬 展
Il est venu le temps de porter l'amulette d'amour,
Je prie tous les jours pour te revoir
ただ ただ 今だけを
守り神にして
いつか また会える
For our Best Friend
2019
2年前。最初は仕事だった。びいが引き受けた小説の監修・整文の仕事。アートじゃ食えず、バイトで日本語教師してたびいは、俺の名で小説投稿サイトにアカウントを持った。仕事が終わった真夜中、びいはふと、自分も「岬」として、何かストーリーを綴ってみようと思い立つ。不動産屋で働く「適当」がモットーの俺、岬。現在は海外在住だが、それは隠そう。変に珍しいこと書いて、注目されたくないからな。
ひたすらノートに向かって、俺を天から降ろす。目に見えた光景を戯れにタイピングし続けるびい。深夜から明け方。その眠ったような空っぽなびいの身体に俺が入って。自動書記、いわゆるオート・ライティングは無意識で始まった。
物語やエッセイに飽き、ネタに尽きた俺は、日記でありのまま語ることにした。自分の世界の日常、美術館計画。海外在住だとバレるか。パラレル・ワールドに住む俺、海外での冒険。自分とびいは、諸条件と年齢、性別、性格を変えただけで、なぞる道はそっくりだな、と感じた。おまけに、俺の世界にも「びい」はいた。俺の世界のびいは親戚のおばさんだった。おばさんと呼ぶには若すぎる。高校を放校になりかけた俺は、びいのいる海外に一時期、身を寄せたこともあったが、それだけ。あんまり関わりなかった。説教されたことはあるけど。
あれ? なんで俺、びいの住むこちら側の現実世界に来たんだっけ?
こっちの世界の「びい」は、めちゃくちゃに頼りなかった。俺の世界の「びい」はもうちょっと大人だったが。まあいいや。俺が助けてやろう。俺はびいの身体に入って、朝の駅で、桜吹雪を見ていた。俺がノートに書き付ける。びいの代わりに。電車が行ってすぐだから、誰もいなかった。びい、お前、時間にルーズだぞ。朝のひかりの中、立ち止まり、俺は革の表紙のノートを取り出した。どうせ30分は電車がない。誰もいない駅前の緩やかなスロープで、俺は兄貴に言われた「お前、なんか歌詞でも書け、You Tubeで一山当てろ」という言葉に応じ、言葉を書き付けた。
驚いたな。気がつけば、涙が滝のように流れていた。びいの身体だからか? 素直だな。涙など、とっくに涸れたと思ってたが。
嵐の夜、亡くなったあの子に、俺たちは詫びた。大学の春休み最後の週末旅行。ただ海を見たかった。「こんな日に本当に行くの?」と聞いた母さんに、あの子は「私がついているから大丈夫です」と答えたそうだ。俺は、母さんが反対したことさえ知らなかった。深夜の田舎道の不幸な事故。豪雨が上がった直後の坂の上。左カーブのスロープ。滑り台のてっぺんのように視界が開け、遥か遠くに信号機が見える。信号待ちに止まっている車は2、3台。点のようなひかり。俺は、上り坂で踏んでいたアクセルから足を離した。緩やかに下り始める。
その時だった。ものすごい勢いでハンドルが引っ張られた。センターライン越えるだろ! ハンドルを何かに掴まれ、引き寄せられるのに抗う俺。右手の田んぼに落ちる、ガードレールとかないからな。慌てて、無理矢理に左に切る。左に切りすぎたか。
何かにぶつかるみたいに車が止まった。映画のシーンみたいだ。俺は廃車だな、前がアウトだ、と思った。あ〜あ、まだ一年しか乗ってないのに。フロントガラスが割れ、ジャリっとかすかにガラス粉末を噛むのを感じた。エアバッグ、ついてないわけないが、ハンドルに顔をしこたま打ち付けた。助手席の低い呻き声にシートベルトを慌てて外す。ガタイが大きいせいで、シートベルトで首が絞まったな。気道確保が戻り、咳き込む音。外に回る。
車を降りた。左の後部座席部分の大きな凹み。塗料がハゲている。なぜ?前だけじゃないのか? 対向車があったのか? 振り向くと、対向車が道路のど真ん中に止まっていた。俺の車は脇の露天の中古車センターの側道に突っ込んでた。
まさか。
俺は慌てて、赤いクーペの後部座席を外から覗いた。まさか。
ここからはとても書けない。後部座席のあの子はシートベルト締めてなかった。俺は
いくらでも詳細に、この日のことを思い出せる。なのに、ここから先、どうやって、病院まで辿り着いたのか、どうしても思い出せない。担架に横たえられた彼女だけは思い出せる。
次の記憶は、病院の待合
そこまで記憶が飛んでいる。
俺は、外に出るまで、あの子に何かあったなんて、微塵も心配してなかった。太陽が天から落ちることを、心配する人間がいないのと同じように。
いつから、舞い散る満開の桜がやっと涙なしで見られるようになったのか。気の遠くなる年月の果てだった。白い大地に埃が舞うように、やっと何も感じなくなるほど、乾ききった自分になった。涙も涸れた。
俺たち生き残っても、結局、何も、大したことなど遺せなかった。びいも俺と全く同じ経験をしていた。あの子が生きていたら、なし得たことを、何かしなければ。将来有望で優秀だった女神のような彼女。理系の国立大学に進学していた。俺にとって太陽と同じだった。独り占めしたいなど、そうできるなど、一度も思ったことはなかった。
世界の完璧さはあの子が体現しているから、不完全な人間らしい「世俗な自分」で良いとずっと思ってた。俺もびいも。びいはもう普通のしあわせは望めない、償いのための使命を果たす、と芸術に生きると決めた。歴史に名を遺す。あの子は、そういう人生を歩くはずの人だったから。俺は世俗に居続けた。俺は、自分の世界で成功してみせる。面白おかしく、だけど、あの子だけを愛したままに独身で。
でも、俺たちはこのまま何事も成さずに終わるだろう。びいも俺も泣いていた。申し訳なかった。もうタイムリミットが近い。あと、3〜4年でタイムオーバーだ。
事前に事故を察知できなかったこと、びいは自分を責めた。自分の能力。人生を信頼しすぎていた、心配などしていなかった。あの子と一緒で、何を心配することなどあろうか、と。これから生きねばならない、不完全な世界。それは長く。でももうすぐ終わりだ。あれから頑張ったけれど、大したことは何もできなかった。
俺がびいと関わったのは、「自分に霊的な力が足りていたら」というびいの後悔のせいなのかもしれない。でも、俺がいたのに、ダメだったくらいだから、これも運命。
俺は
俺に言うな。俺だって悔しい。自分が足りていなかった。
深夜、もう最後だから、と真っ暗な中、声に出して静かに延々と詫びた。そうしていたら、あの子と初めて、話すことに成功したんだ。翌朝、俺はたとえ生まれ変わっても、決して伝えることはないだろうと思っていた俺の気持ちを、初めて、言葉にした。
I became Medium
2019
あの子と初めて、話すことに成功した。こんなに簡単に話せるなんて。夢なら覚めないで欲しいと泣いたままに。泉のように、いつまでも涙は出た。自分が知らぬままに。俺とびいは他の人に、誰にも会わない世界にいようとした。俺にとっては涙の理由の説明が面倒、びいにとっては、その涙の河の流れに乗り、やっとこの、現実世界から永遠に立ち去れる時期がきたから。
俺たちは夢中になり、毎日、深夜から朝まで起きていた。夢にまで見たあの子と話せる。こんな簡単な方法に、なぜ気づかなかったんだろう。
Misaki and Bee and The man who war clhlonicle
2019
女の身体は使いにくいと感じた俺は、戯れにびいに言った。「そういえば、戦記の人はどうしてるかな?」びいが前に、ネットから仕事の依頼を受けた。神風特攻隊のインタービューのテープ起こし。ネットの世界の依頼人に会うことはまずない。依頼人が誰かわからないことも多い。「俺さ、あの人の身体なら入れる気がするんだ。ブログ見てくれば?」
素直に検索した先を見て、びいが突然、号泣し出した。
俺は驚いて、「どけ」と、PCの前に座った。戦記の人のブログ。救急車の写真。お見舞いの花と達筆の手紙。気がつけば俺も泣いていた。あんなに落ち着いた礼儀正しい人が、まさか?
仕事中も、一切、私事の雑談などしない人だった。実は俺がびいのネット下請け作業をしているから知ってる。ブログを読んで、絶句した。三年半後、すべての資料を整理して、生き残った人がいなくなったら……
誕生日に生前葬をして、スイスに行き、安楽死を計画していると……なぜ?
人の気をひくために、そんなことを言うような人でないことを、よく知っていた。真面目で、好青年で、いまどきいないような侍……古き良き日本にいた「男に二言はない」と言うようなタイプの……言葉を選んで、無駄なこと一切書かないような文章を書く、あの人が?
最愛の恋人を亡くしたから?
そんなこと、一言もこれまで、触れられたことはなかった。最近の投稿を見て、絶句した。まるでパラレル・ワールドを見るようだ。同じような経験を?
俺たちは、ショックで涙が止まらなかった。
Our Previous Memories
〜1900年?
帰国した時は一度お目にかかりたいですね、とは話に上がったことはあった。会ったことはない。びいは……
今回は会わない、と……。びいは前世の記憶を覚えているから。昔から覚えていたわけじゃない。ある時から、急に。それは、まるで、PCソフトをダウンロードするように、突然に頭の中に入ってきた。一度そうなると、どんなことでも大体、思い出せる。前世はいくつあるのか。17個まで数えてやめた。キリがない。いくらでも思い出せる。
あの人には何度も出会ったことがある……その度ごとに、出会ったらすぐに、手に手を取って、死ぬことになるから……
迎えに来てくれるのをひたすら待ったり……
二人で逃げ出そうと、館に火を放ったり……
何もかも、遅すぎると一人、身投げしたことも……
俺も知っていた。人魚の記憶……俺も。
身を切られるような……激流の中にいるような……
パラレル・ワールドの仕組みは、とても不思議だった。選択しなかった瞬間、その別の選択をしていたら? という、パラレルの現実が紡がれ始める。並行世界の誕生。俺はパラレルから、こちらの世界に関わることになったが、ところどころ設定をちょっと変えただけで、俺とびい、まるでそっくりだ。戦記の人とびいも、何かが似ている。
俺の前世はびいと同じく、ほとんど女性だった。女神だった時、寂しそうにしていた神が天から墜ちた。その神は、実は悪魔と呼ばれる存在だったわけだが。反射的に、思わず手を伸ばし、一緒に堕ちた。それは、今回、既に現実世界でビジョンを見た。同じことを繰り返すのか、どうか。俺たちはドアを閉めて、立ち去ったんだ。そんな必要はない。では、神を悪魔に変えるものとは、なんだろう?
俺もびいも、最後の最後に、答えを見いだしつつあった。
「自然に振る舞う素質が、悪魔的だと人から忌み嫌われる」
悪魔はそう寂しそうに、かつ、何も感じていないように言った。矛盾している。冷たい笑い。諦めたような。愛に飢えているのに、結局、奪い尽くすことになる。いくら愛されても足りない。だから、冷たく心を閉ざし、孤独に棲む。
俺もびいも、真の暗闇の中、目にした美しい緑の発光の悪魔の顔を決して忘れないだろう。でも俺たちは、その美しさに魅入られることはなく、ドアを閉めた。こんなにも愛しているのに? まるっきりの矛盾。愛している、助けてあげたい。なのに、吐き気で体が拒絶する。場を同じくすることさえ不可能だった。俺たちが住むのは、闇でなく、ひかりの世界だから? それで、今回は終わったと思っていた。まさかまた、死ぬ直前に悪魔と面会機会があるとはな。
パリのノートルダムの火事。悪魔が俺の前に再び現れた。
なんでもお前の望みを叶えてやろう。
何か欲しいものはないか?
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